SIerの技術力について【技術力と年収は無関係】

SEについて

こんにちは。

散々問題にされていることではありますが、SIerと「技術力」の相性の悪さの話をしたいと思います。
散々問題になっているということは、私も何か思うことがあるということなので、なるべく現場の視点で思ったことを書いていきます。

筆者のプロフィール

  • 大手のSIerのSE
    (下に出てくるSIerの多重下請け構造の中ではプライムベンダー=一次請けの立場で仕事をしています。)
  • 2019年に新卒で上記の会社に入社し、2年目に突入
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SIerの技術力軽視

数日前にバズっていたこちらのツイートを見て、これは本当にSIerに顕著だと思いました。

これはまだ入社して1年しか経ってない若造の主観ですが、SIerは年収が決まる要素の9割は、どこの会社に入るのかということだと思います。
で、この年収が高い会社に入る方法に、技術力がほとんど関係ないという現状があります。

このような現状になっている背景(多重下請け構造)と、技術力がなくても入れるプライムベンダーが提供できる価値って一体何なんだろう?みたいな話をしたいと思います。

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SIerの問題点:多重下請け構造

ITゼネコン(多重下請け構造)とは?

わざわざ詳しく説明する必要はないかと思いますが、大規模なシステム開発は一社で賄いきれるものではなく、多くの人月がかかります。顧客から発注したプライムベンダー=1次請けは、顧客との要件定義やマネジメントを中心に行い、開発の一部をより単価の低い2次請けに発注を行います。

2次請けがより単価の低い作業を3次請けに、3次請けが4次請けに…と中抜きが繰り返されて、何重にも発注が行われます。これが多重下請け構造です。
ピラミッドの形をイメージしていただければ分かりやすいと思います。

多重下請け構造のどの位置にいるかで、明確な役割分担が存在する

この多重下請け構造の下では、どの会社が何次請けの会社であるかも、それぞれの階層の会社がどの仕事を行うかもはっきりと決まっています

一定規模以上の規模の基幹システムにおける役割分担は大体以下のようになっています。

一次請け、二次請け、三次請けの役割分担

  • 一次請け:顧客(大規模基幹システムで有名なのは官公庁とか銀行とか)への提案、要件定義、進捗管理
    (調整・交渉をしながら決め事を行う、決まったことを切り分けて2次請けに発注する)
  • 二次請け:詳細設計を中心になって行う、仕様書をもとにプログラミングを書く、テストをこなす、運用保守を行う
    (スキルが必要な決められたことを行う)
  • 三次請け:運用保守のオペレーターとして、手順書に沿って決められた作業を行う
    (スキルが必要ない決められたことを行う)

※場合によってはもっと細かく分かれます。二次請けがさらに仕事を分割して機能ごとのプログラミングを三次請けに任せるなど。

一次請けは、主に「仕事を生み出す(提案して受注する)」、「お客さんが求めていることを要件にまとめる」といったことを行います。スタート~超上流の工程です。

要件が決まってからは、大体プライムベンダーが二次請けや三次請けの力を借りながら仕様書を作ります。その後、二次請けや三次請けが決められた仕様書に従ってプログラミングやテストを行います。

プログラミングやテストなどの製造プロセスは決められた仕様書に沿って作業を行うので、大体二次請けや三次請けに丸投げです。スキルは必要だけど判断や決定が少ない作業(すなわち責任問題が生じづらい作業)であるし、誰がやろうと大してかかる人月は変わらないのだから、それならば単価を下げたいという思惑があります。

大規模な基幹システムのプライムベンダーは、大体こういうところに載っている企業です(もちろん他にもあります)。

プライムベンダーだと大体子会社を持っており、そこに発注を行うことが多いです。
「デー子」とか有名ですし、日立製作所や富士通は日本大企業の中で子会社を多く持つ代表的な企業です。(参考:東洋経済オンライン『最新!連結子会社数が多い500社ランキング』)

二次請けはプライムベンダーに比べて2~2.5割くらい年収が下がります。更に3次請け、4次請け…となるとさらに数割ずつ年収は減少していきます。

技術力は所詮、「決められたことをこなす能力」でしかない

エンジニアは「戦闘力(その人個人の市場価値、稼ぐ能力)」=「技術力」だと思われがちで、技術力が上がれば上がるほど年収が上がっていくと思われがちですが、上記の構造より、SIerの世界の中ではそれは間違っています

私は技術力という言葉がマジックワードで好きではないので解説しますと、ここで言う技術力とは

  • 特定分野に対する専門知識
  • 仕様書を見て、それを理解してプログラムを実装しきる能力

を指しています。

特定分野に対する専門知識とは、一番広いものだとクラウドでアプリケーション開発を組むときのノウハウや、テストを行う上で必要なツールやドキュメントを一覧化して用意する能力くらいの分け方です。(細かいものだとAWSの中の○○の組み込み方、とかでしょうか。)

「えっアプリケーション部分の基本設計とかテストのドキュメント作るくらいプライムベンダーだけでやらないの!?」
と思うかもしれませんが、自分たちだけではやらないです。
大規模なシステム構築プロジェクトは何社にも分けて発注を行うので、アプリケーション部分の開発、インフラ部分の開発、テスト、運用…などシステムの部分ごとやプロセスごとに会社に分けて発注を行います。

大規模案件を受注してるプライムベンダーの大企業の視点は、「AWSを使ったアプリケーションの開発に詳しいのはこの会社のこの部署だな、じゃあここに発注して話を聞きながら技術的なこと考えるか~」といった感じです。
お客さんが技術に超絶詳しく、会話の要求レベルがものすごく高い場合を除いて、残念ながら技術力をわざわざ自社で賄おうという精神はあまりありません。

つまり、個人の能力として特定分野の専門知識やプログラミング能力を伸ばしても、2次請け止まりとなってしまう可能性が高いです。ピラミッドの頂点に立つには、技術力を伸ばすよりも「仕事を作り出す側」「マネジメント側」に回る必要があります

「いや、技術力なくて顧客の御用聞きと丸投げやってる人間より専門知識を持って実際にシステム作ってる人間の方が偉くない?」って思いませんか?私は思うのですが、残念ながら古来から「そういうもの」の構造なようです。

一次請けは、技術力よりもコミュニケーション力が大切

一次請けがやることは決め事やマネジメント業務が中心になるので、ステイクホルダーとの調整や見積もり、原価管理、発注した何社もある二次請けの開発の進捗管理などです。

これは大体人と話して何かを頼む・何かを決めるということなので、コミュニケーション能力や人脈がものをいいます
自社の上層部に話を通したり、人脈を使って自分のプロジェクトにスキルセットが合う人をアサインしたり、要件を正しく伝えて二次請けに発注したり、様々なステイクホルダーとの調整を行ったりします。
上層部に反対されたらそもそもプロジェクトが始まりませんし、要件が正しく伝わらなければ開発が全部止まります。

これは実体験ですが、ほんとに、コミュ力命。

技術的に分からないことがあったら、「詳しい人呼んで見てもらってそれをもとに提案資料作ろうか」という感じで、分からない技術的な部分を調べるのではなく、その見てもらう要件を仕様書にまとめて見積もりして発注を出すのが仕事です。今のプロジェクトもそんな感じです。

また、 技術力要らないならプライムベンダーは一体どうやったら入れるんだよと言う話ですが、 コミュニケーション力とかマネジメント経験とかが問われるのではないでしょうか。

でもマネジメント力は可視化することができないので、面接で何を見て採用されているのか正直分からないです。中途で入ってきた人も正直コミュニケーション取れてないよな…みたいな人もいるんですよね(小声)

一次請けは、技術を学ぶ時間がない

プロジェクトの工程によって一次請けと二次請けのどちらが忙しいかは異なりますが、 SEはブラックというのは大体全員に当てはまります
二次請けの人に頼んだ分野の技術について自分で調べる時間はあまりないでしょう。 入って数年の若手は基礎知識を習得するという意味で自分で手を動かして少しプログラミングをしてみたり、技術を学んだりしますが、マネジメント業務の中心になっている40代くらいの人はこのSIerの構造に染まりきっていますし死ぬほど忙しいので、ほとんど技術について勉強しないと思います。

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多重下請け構造の頂点の価値は何か?

「大企業」であることしか価値がない現状

顧客調整と管理作業しか行わない一次請けがどうしてここまで日本のIT業界を支配しているかというと、正直最大の価値は「大規模なプロジェクト体制を敷けること」に見えます。
なんでこの企業が成長したんだろう?とかそういったことを考えるのはナンセンスで、既得権益の世界です。

一次請けは「手配師」だとよく言われているのはこういうことで、お客さんからシステム全体の要件をまとめて聞いて、それを実現するために人を集めるのが価値ということです。

また、お客さんから見ると一次請けは「ラッパー関数」みたいなものです。彼らは自分で何社にも発注を行ってそれぞれ仕様を検討するのが面倒だからまとめてお願いして簡単にしたいので、需要と供給は一致しています。

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まとめ

一次請けの仕事内容に絞って、プロジェクトの始まりから終わりまででどのような仕事を行っているのかや、どこで炎上しがちなのかを以下の記事で解説しました。
仕事内容を踏まえ、SIerで働くのに向いている人/向いていない人も詳しく書きましたので、就活生の方や転職したい方は、この記事を読んで自分がSIerで働くのに向いているかどうか考えてみてください。

SIerに向いている人と向いていない人【仕事内容は交渉と手配】
SIerの現役SEが、SIerでのプロジェクトの進め方や仕事内容、向いている人と向いていない人を現場目線で解説します。自分がSIerで働くのに向いているかどうかを考えてみてください。

一次請けというのは上記のような実態で、「マネジメントだけさせられて技術力がつかないからといって若手がどんどん辞めていく」みたいな話もよく聞きますよね。

私も「 (同期にそのような人が結構いるので) 有名大学卒できちんと研究をやってきた理系修士卒が入るには正直もったいないよな…」と思ってます。まあ優秀な人はマネジメントスキルとそこそこの技術力を身に付けて転職する前提でいますが。

私が大企業の記事やSIerの記事を書いている理由は、入ってみてこんなはずじゃなかったとミスマッチを起こす人が減ってほしいからです。実態を少しでも知ってもらえたら幸いです。

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